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千葉地方裁判所松戸支部 平成4年(わ)60号 判決

主文

被告人は無罪。

理由

一  公訴事実

本件公訴事実は、「被告人は、法定の除外事由がないのに、第一、平成四年二月四日ころ、千葉県船橋市《番地略》甲野コーポ一〇二号被告人方において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン約〇・〇二グラムを含有する水溶液約〇・二五ミリリットルを自己の右腕部に注射し、もつて、覚せい剤を使用し、第二、同月五日午後九時三五分ころ、千葉市《番地略》A方において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩類の白色結晶状粉末約二・五〇四グラムを所持したものである。」というのである。

二  本件公訴事実について、被告人は、当公判廷においてこれを認めたほか、被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書(検察官請求証拠番号乙一ないし七号証)においてこれを自白しているところである。

そして、検察官は、被告人の右自白を補強する証拠として、平成四年四月二三日、第一回公判期日において、司法警察員B外一名作成の現行犯人逮捕手続書(検察官請求証拠番号甲1号証。以下「甲何号証」という。)、司法警察員C作成の捜索差押調書(甲2号証)、千葉県警察本部長作成の平成四年二月二〇日付け鑑定書(甲3号証)、被告人作成の任意提出書(甲5号証)、司法警察員C作成の領置調書(甲6号証)、鎌ヶ谷警察署長作成の鑑定嘱託書謄本(甲7号証)、千葉県警察本部長作成の平成四年二月一四日付け鑑定書(甲8号証)、司法警察員E作成の写真撮影報告書(甲9号証)及び千葉地方検察庁松戸支部で保管中の覚せい剤一袋(甲12号証)の証拠調請求をなし、さらに、平成四年五月二八日、第三回公判期日において、司法警察員D作成の写真撮影報告書(甲15号証)、司法警察員E作成の報告書(甲16号証)及び司法警察員D撮影の写真二葉(甲18号証)の証拠調請求をなし、当裁判所は、平成四年六月二二日、第四回公判期日において、Dの証人尋問の実施後、甲15、18号証を証拠として採用した。

三  しかしながら、本件記録に編綴された平成四年一二月一四日付け決定書記載のとおり、右の各証拠は、その収集過程あるいはその作成過程の手続において、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当ではなく、いずれも証拠能力を認めることはできないから、当裁判所は、平成四年一二月一四日、第一二回公判期日において、甲1ないし3、5ないし9、12、16号証についての検察官の証拠調請求を却下し、すでに取り調べた甲15、18号証についてはこれを本件被告事件の証拠から排除する決定をした。そして、他に被告人の右自白を補強するに足りる証拠はない。

四  以上の次第で、本件公訴事実については、その犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法三三六条に従い、被告人に対し無罪の言渡をすることとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青木昌隆 裁判官 畑中英明 裁判官 黒野功久)

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